ある通信兵のおはなし

無線諜報の動向

平成16年9月24日配信
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 無線電信は、発明されたのち、民需用として長足の進歩を遂げてきました。
その裏には、軍事用の情報通信手段としての機器の研究開発が進められた結果があったことを見過ごすことはできません。
 現在、民需用として広く一般的に使用されている「カ−ナビ」が、軍事偵察衛星の空きチャンネルを利用していることからもその一部を伺い知ることができます。原子力発電も、原子爆弾開発の過程の延長線上にあるといっても過言でないと思われます。

兵器の開発に伴いその一部が民需用として使われているもののなかに、自動車エンジンのス−パ−チャ−ジャ−がありますが、これは飛行機のエンジン性能を向上させるために考案された装置でした。

このように考えますと、私達が知らず知らずのうちに利用しているもののなかで、軍事用として研究し開発されたものは存外に多いのです。

 無線通信は、波長にも差はありますが、発信された信号は地球上の殆どの地域に達し、その速度は秒速30万kmにも達します。従って、これを軍事用として使用する場合は、敵方が通信内容を解読できないよう暗号化することが最大の要件です。そのため、各国は暗号化と解読にしのぎを削っていました。

なかでも、ドイツの「エニグマ暗号器」は自動暗号解読器として広く知られています。アメリカでも自動解読器は開発されていましたが、「エニグマ」には及ばなかったそうですから、「エニグマ」の暗号の硬さは当時、最高峰であったと思われます。

 旧陸軍の諜報関係の組織には「陸軍中央特殊情報部」がありました。
この組織は、大正10年に外務省電信課分室で行なわれていた「暗号研究会」が前身であると言われています。
この部は陸軍の暗号作成並びに米軍の暗号解読を任務とし、主としてマリアナ方面のB-29の動向を探索していましたが、テニアン、サイパンなどのB-29の戦隊番号まで把握していました。

 戦後、吉田茂のブレ−ンだった、辰巳栄一・元中将の推奨を受けた何人かが自衛隊に入隊したようですから、自衛隊の通信暗号の幾分かは陸軍の流れを継いでいるのではないかと考えます。また、高名な政治家であった緒方竹虎は、吉田内閣の副総理の頃に「JCIA」方式の「日本国統合情報機関」の設置を提案しました。しかし、当時の内外諸情勢から勘案し「時期尚早」として日の目を見ることなく消え去りました。
以後、60年を経過しても、スパイ防止法とやらは地下に潜ったまま姿を現しません。

 一方、海軍の諜報機関は「ニイタカヤマノボレ」の暗号の第一送信所であった「海軍軍令部第4部大和田通信隊」が主役でしたが、暗号解読は比較的強度の弱い「航空暗号」以外は出来なかったそうです。しかし、トラフィック解析(通信解析の手法)は抜群だったそうです。
通信解析とは、通信の発着信艦、通信量、頻度、時間、通信文の長さ、通信状況の変化などから、敵の出方を推理するものです。
統計学を駆使した理論はありますが、コンピュ−タ−がなかった時代ですから、手作業と「勘」で類推したそうで、予備学生出身の士官が主役だったそうです。

終戦後、いち早く軍令部第4部と大和田通信隊を徹底的に捜索したことからしても、米軍はその存在を重要視していたことを知ることができます。

 1987年(昭和62年)11月29日、アブダビ発ソ−ル行き大韓航空機858便が北朝鮮の破壊工作員により爆破され墜落する事件がありました。
爆破の実行犯として逮捕された、「金賢姫」(日本名、蜂谷真由美)の手記「いま、女として」によると、労働党の秘密工作員に選ばれた1985年(昭和60年)7月から1987年1月にかけて、中国の広州とマカオに語学実習に行ったそうですがその際、本部の指令を直接受けることができるようにするため、モ−ルス通信の高速度の受信能力を習得する訓練を受けたそうです。

 彼女は工作員養成所である金星政治軍事大学を卒業した1983年(昭和58年)から1984年7月にかけても、モ−ルス通信の受信訓練を受けていました。
毎日、午後3時、夜9時、午前0時の決められた時間に、指定された周波数に合わせ、モ−ルス符号の受信能力を訓練した結果、一分間に信号20組を受信することができたそうです。1組の暗号が5文字と仮定すると、分速100字を受信できたこととなります。

 工作員個人のコ−ルサインとCQ系という共同呼び出し符号がありますが、戦後、電波法違反で逮捕された者のなかには、一人で9つのコ−ルサインを持った者もおります。関東地方のCQ系を示すブロック別のCQ符号は「CQ900」のようです。これは、受信機を指定された時間に検波し、冒頭に「CQ900」とあれば、関東地区に散在している工作員は「全員受信しろ」と言う命令を意味します。

電波法上では、不法電波、違法電波を発射すれば、電波法違反として逮捕されますが、受信のみで電波を発射しなければ、法的には何の罪にも問われません。
しかし、受信した指令がどのような惨禍を招くことになるかも知れない現在の法律は真剣に見直すべき時期がきていると想います。

指令内容を当時に解読できていたとすれば、拉致も未然に防止できたのではないでしょうか?


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