ある通信兵のおはなし

新鋭機の初陣

平成16年8月20日配信
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 新たに配備された哨戒機に搭載されたレ−ダ−の操作方法を、技術担当の徳本一等兵に教わりましたが、ブラウン管に写しだされた映像を的確に判断する解析力を会得するのは、なかなか難しく、特に、相手が航空機または艦船のような移動体の場合は、その区別は至難でした。

解析能力を高める手段としては、経験の積み重ねによる「勘」の育成しかありません。

電探基地の電測兵は、電測学校で厳しい訓練を受けるとは聞いていましたが、解析と判断能力が全てであることを知り、「徳本一等兵から短期集中訓練を受けたい」とT曹長から通信室長に要請してもらい、3日間の集中訓練を受講することとなりました。

一等兵に対して、「3日間の訓練期間中は階級を忘れてシゴイてくれ」と頼み、電波理論の一から教わりました。

T曹長と一緒に浦賀水道から伊豆半島を3度に亘って飛行し、陸地と船の見分け方を練習しましたが、飛行機の場合の映像はどのように映るのか、少し不安がありました。
後は、実際の体験を通じて自分なりに会得するしか熟練する早道は無いのだ、と悟りました。

T曹長から、
「明日、新機に対する慣熟と哨戒行動のため、07,00に出撃する。今夜は早目に寝るよう」との指示がありました。

徳本一等兵に、「教わることの最終仕上げとして、なにが最も重要なのか?」を尋ねますと。

徳本一等兵。
「自分の技量に不信感を持つとオシマイです。と言って満足してしまったら、これもオシマイです。
ですから、自身の判断が正しいとの自信を持って、事にあたれば何事も成功するでしょう。
頑張ってください」

25才も年上の一等兵は、日頃は目立たない仕事ばかりを押し付けられていましたが、それに対して嫌な顔も見せないタイプでした。
やはり自分は技術者であるとの自信があったからだと思いましたが、今後の任務遂行に当たって、非常に参考となる適切な助言をいただきました。

私。
「ありがとう。いまの言葉は全てに通じると思う。
今後ともこのことを忘れないよう精進して行きます」

翌日、私たちの機は伊豆半島沖へ、後藤軍曹機は房総半島沖へ、中谷軍曹機は駿河湾沖へそれぞれ出撃しました。

新機のセルモ−タ−は強力で、18気筒エンジンの二基がスム−ズにかかりますので、イライラすることがなく、整備兵は他の二機のエンジンスタ−タ−を換装して欲しいと言っていたそうです。

エンジンは快調です。
伊豆半島沖約300kmの地点で、基地に対し現在地点の座票数値を通報するとともに、「米軍の通信状況を傍受すれば、即通報されたい」と要請しました。

レ−ダ−のモニタ−画面を食い入るように眺めていましたが、変わった様子がありません。
双眼鏡で、前方の上空と洋上をくまなく見ましたが、静かな空と海が広がっているだけです。

このような環境にあると、戦争などを忘れてしまうこともあり、緊張感が薄れるものですが、緊張の連続では神経が参ってしまうので、神経を休めても大丈夫であると判断できる場合は、出きるだけ緊張をほぐすように努めました。

しかし、「出撃中に緊張、脱落」のコツは経験を重ねないとなかなかできなくて、最初の頃は、帰投後にふら付くことがしばしばありました。

モニタ−画面の上の方に小さな点が見えます。
この点が航空機だとすると米軍機しかありません。
方位と距離をT曹長に連絡をしてしばらくすると、基地から、

「米軍機の交信を捕捉した、内容から類推すると編隊の先導機のようだ」
「ただし、発信位置は不明。注意されたい」。
との通報が入りました。

T曹長。
「モニタ−に映っているのが交信している米軍機だ。高度を下げる」

高度5,000mで巡航中でしたが、いきなり300mまで急降下。
強いGでゲップが出そうです。

これは、高度差を大きくとることにより、相手から発見されにくくするための、一つの手段です。

相手はまだこちらの機に気がついていないようですが、双方とも時速約500kmで飛行していると仮定すると、相対速度は1,000kmになり、秒速約278mにもなります。

このことは、一分間に約16,7kmも双方が接近することとなりますので、空戦になるとすれば、早く発見した方が勝ち目があります。

レ−ダ−の性能から判断して約150kmで捕捉したとすれば、それから5分間経過していますので、相手との距離は約84km接近したこととなり、米軍機との距離は約66kmです。

基地から。
「米軍機の交信を捕えた。憶測したとおり先導機だ。『日本軍機を発見、攻撃する』と本隊へ通報している」

先導機らしからぬ行動です。
自分の本来任務を忘れ、敵機を発見するとなにがなんでも攻撃にでるという余裕の無さから、熟練操縦士でないことが見え見えです。

「経験の浅い者が先導するとは、米軍も熟練者が少なくなったのか?」
と感じられました。

このことは、曹長も察知していたのでしょうか。

T曹長。
「このまま低空へ引っ張り込んで、相手の出方を見よう」

曹長は余裕しゃくしゃくです。
今日はどのような戦術で空戦を演じるのか楽しみです。

基地へ。
「先導機を目視確認した。現在地座標○○。米軍機はグラマンTBF」

折り返し基地から。
「電探基地の情報。米軍機編隊を捕捉したとの通報あり」

グラマンTBFの後方約100km以内に大編隊の模様ですが、そのことは、もうとっくにこちらは、情報として認知していました。

レ−ダ−により、相手よりも優位に立てることの素晴らしさを体験しました。

グラマンは急降下してきますが、曹長はそのまま水平飛行です。
このままだと標的が大きくて不利ですが、曹長は予定の行動のようです。
射程内に入るまでは安全です。

射程距離まで降下してくる間に、相手の後方位置につくと同時に、急角度で上昇しました。
上昇に対する瞬発力が抜群でしたので、グラマンの腹が大きく見えたとき斉射。

グラマンの操縦士にしてみれば、目の前の敵機がいきなり姿が消えたので、さぞかしうろたえただろうと思っていますと。

遥か下の方で大爆発炎上して墜落してゆきます。

米軍機は相対速度の計算を誤ったことと、精神的に余裕がなかったことから、結果的に撃墜される運命となったのです。

曹長の空戦術は一種独特で、「相手が攻撃してくる力を利用して攻勢にでる」というもので、合気道の技を採りいれたものでした。

米軍機の編隊を捕捉するため、再び高度を落して南下し、レ−ダ−の画面を凝視していますと、見えてきました。

点の塊のような映像です。
この映像からおよその機数が判断できればよいのですが、さすがにそこまでの解析能力はありませんでした。

しかし、彼我の距離は推定できましたので、米軍機の編隊を発見したことを基地へ通報しました。

基地から。
「米軍機の編隊長機が、先導機を何度も呼び出しているが、応答なしの模様。
なにかあったか?」に対して。

私。
「先導機のグラマンTBFを撃墜。これより米軍編隊を探索する。距離約50km」

目視できなくても、レ−ダ−の威力は大したものです。

編隊が見えました。
双眼鏡でよく見ると、P51のようです。
この機はエンジンが液冷方式で特徴があり、確認しやすいのです。
概ね50〜60機です。

昼間は、戦闘機による軍事施設に対する攻撃が頻繁でしたが、迎え打つわが軍機は少数でしたから、米軍機の一人舞台でした。
「同数の迎撃機があれば、むざむざと思うようにはさせなかったであろう」との悔しさを、いつも感じていました。

米軍編隊の真下を対向する形になりました。
編隊長は我が方の機を確認しているでしょうが、全く無視し、編隊を組んだまま悠々と北へ向かっています。

基地に対して、
「目視確認した位置および機種と機数」を通報したのち、Uタ−ンして編隊の後方約20kmを追尾しました。

編隊は、ただひたすら日本本土の目標を目指しています。
様子から判断すると編隊長は歴戦の猛者のようです。

ただ一機の日本軍機を発見しても動じることなく、編隊を引っ張っています。

曹長もそのことを感じたのでしょう。

T曹長。
「編隊長は、一筋縄ではゆかない根性を持っているようだが、どのあたりまで追尾すればいいかな」

私。
「航路を変針するまで追尾しましょう。変針位置でおよその目標地点を憶測できます」

基地へは
「米軍編隊を追尾中。変針地点が判明すれば通報する」
と連絡を入れました。

このような変則的な索敵哨戒をするのは、自慢話ではありませんが、我が機だけであろうと思いました。


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