ある通信兵のおはなし

新鋭偵察機の配備

平成16年8月13日配信
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 待望していた新鋭の偵察機『屠龍』が明日早朝、我が基地に配備されることとなりました。

T曹長から、「米軍機との遭遇を避けるため、夜明け前にテストパイロットの操縦でメ−カ−から飛来してくる」との説明がありましたが、何の標識もない滑走路への着陸は困難であるため、「何かよい方法はないか?」と聞かれました。

2,000m未満で甲子園球場の外野のような状態ですから、目測を誤り設置点がずれると、オ−バ−ランするやも知れません。

私。
「曹長殿、耐G用に腹に巻きつける晒しの布を、最も適切な設置点を表示するために、地面に伸ばして敷いたらいかがでしょうか」

T曹長。
「よい案だ。
赤い布があればよいのだが。
赤インキが沢山あれば、布に撒くことが出来るが・・・」

私。
「白色でも、上空からハッキリと確認することは可能であります。
後藤軍曹が不時着した際に、下で振っている白い旗はよく確認できました」

因みに、色彩は見る人の筋肉を緊張または弛緩させる現象がありますが、最も弛緩させるのは「ベ−ジュ」で、次が青・緑・黄・オレンジ・赤の順になっています。

また、色ごとに波長があり、赤色が一番遠くまで届きます。従って、交通信号も、色の波長と色を見たときの緊張度から考えて、青・黄・赤と定められているそうです。(一般には青信号と言われていますが、どう見ても緑色に見えますが)

夕刻、隊長から。
「配備される機は無装備であるため、万一、米軍機と遭遇した場合は非常に危険であるとともに、我が隊の位置も、簡単な地図のみでは確認が困難であると考えられる。
T曹長機は、護衛と誘導をするため明朝0600に出発し、途中で合流のうえ、基地まで誘導すること。

なお、配備される機の無線電話周波数は○○khzである」

我が隊にお嫁入りしてくる機は、屠龍丁型(キ45改丁)で、エンジンは中島製の【誉】。
2,000馬力の二基は、セルモ−タ−でエンジン起動ができるほか、過給器も改良型で、上昇時における加速は抜群であると聞きました。

敵機と遭遇し止むを得ず空戦となった場合、最も重要なことは「高度と速度の和」ですが、これを空戦エネルギ−と言います。

高度を稼ぎ、敵機よりも優位な位置を確保するためには、上昇して速度を犠牲にし、速度を稼ぐには降下して高度を犠牲にしなければなりません。

このように、両者はお互いに両立しないのですが、急旋回の場合も速度は落ち、空戦エネルギ−は減少します。一旦落ちたエネルギ−を回復させる手段は、水平飛行するか最適な上昇率で上昇しなければなりませんが、これは相手の射的になることを意味します。
従って、瞬発力が最も重要視されるのです。

また、この機には、八木式アンテナを使ったレ−ダ−も搭載されており、後部座席で操作できるそうです。
有効距離は150〜200Kmらしいですが、大きな対物でないと解読は難しそうです。

翌早朝に出発しました。
予め打ち合わせをした地点に到着しましたので、双眼鏡で前方を監視していますと、青く塗装された双発機が見えます。

「屠龍」の塗装は通常、迷彩色ですが、全く違います。
これは、飛行する空域の殆どが洋上となることから塗装を変更したためだそうです。

余談ですが、イラクに派遣された航空自衛隊の輸送機「C130」も、敵に発見されにくい色に塗装替えしています。

T曹長が無線電話で、
「ご苦労さまです。
ここから我が隊の基地までご案内しますが、基地の滑走路は短いですから、私が誘導します。よろしく」

相手のパイロット。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。
従来の機と変わったところなどは、基地についてからご説明いたします」

基地の上空に到着しました。
隊長以下全員のお出迎えです。

T曹長。
「先ず、滑走路の上を高度20〜30m位で確認飛行をしてください。
白い標識が接地点です。
ただいま、風速は5m、偏流値は1度ぐらいです」

一度低空で確認をしたのち着陸態勢に入り、無事着陸しました。
さすがテストパイロットの着地はピタッとしたもので、左右の主輪が同時に着地しました。

これは、機の平衡を保っていても相当熟練しないと出来ない技術なのです。

昼食後、隊長他、関係者に対して、テストパイロット(軍人ではなくメ−カ−の操縦士)から、改良された装備ならびに機の性能限界などについて、詳しく説明がありました。

性能限界を超える無理な飛行をしたときは、最悪の場合、空中分解することになるからです。

上昇率、上昇角度、急旋回の限界角度、エンジン全開急降下時の限界速度、復元率など、説明に当たっては専門用語が沢山でてきて私には判断できないところが多かったのですが、隊長以下、操縦担当の方々は熱心に聞き、質疑応答が延々と続きました。

無線機、レ−ダ−関係は、その翌日、メ−カ−から技術者2名が来隊され、通信室長と徳本一等兵と私が詳細にわたって説明を受け、操作の練習をしました。

隊長から搭乗機とクル−の発表がありました。

新規に配備された機・・・・竹中曹長、私(通信)
従来機の「屠龍」・・・・・後藤軍曹、竹中上等兵(通信)
従来機の百式司偵・・・・・中谷軍曹、杉本上等兵(通信)

以上のように決定されましたが、新鋭機に搭乗するのに相応しいだけの任務を完全に遂行しなければなりません。
身が引き締まるのを覚えました。


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