胴体着陸(3)平成16年6月25日配信 |
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胴体着陸をしたG軍曹機の損傷状況を詳細に点検のうえ、現地での修理が可能であっても、離陸できなければ、分解して搬送しなければなりません。 隊長から副隊長のY中尉に対し、総指揮をとるよう命令がでました。 Y中尉を中心に整備軍曹他数名とG軍曹、S上等兵とわたし達は深夜まで検討を行いました。 G軍曹。 「エンジン部分の損傷を少なくするために、3度程の迎角でしりもちを付き、後は滑らせた。海水の抵抗が大きいため、滑走距離は200mもないと思う。 しかし、エンジン部分は海水をもろに被ったので、電気周りの絶縁状態は悪くなっていると考える」 「なお、エンジン停止状態で着地したが、プロペラの先が砂浜を掻いたため損傷している」 Y中尉。 「よし、わかった。 明日の一番列車で、本官と、G軍曹、S上等兵および、整備兵長1名が出立する」 「現地での修理が可能かを判断の上、即、無線連絡をいれる」 足の骨の複雑骨折により、太ももからアキレス腱まで金線で固定しているY中尉の歩く姿は痛々しかったですが、夜明け前に皆と一緒に出発しました。 T曹長が整備班の軍曹に。 「エンジンそのものが被弾していなければ、大丈夫と思う。 しかし、潮をかぶっている関係から、電気周りはダメだろう。 左右のプロペラ取替えはもちろんであるが、燃料タンクの補修部品、分配器(点火プラグへの電流分配器)イグニッション(高圧電気発生器)過給器部品一式、バッテリ−、油圧式ジャッキ2組を調達し、トラックに積載のうえ、待機するように。 燃料はドラム缶5本でよい」 と指示しました。 その経験から、準備する機材が即、判断できるのでしょうか。 当時は汽車で行くより方法がありません。 現地までは乗り継いで3時間は充分かかるでしょう。 T曹長が 「奉公袋と、なにか錘(おもり)になるものを用意せよ」と言われました。 始めは何のことかわかりませんでした。 が、曹長が半紙に何かを書き始め、ヤットわかりました。 上空から機の監視依頼文を投下するためで、警察署長あてでした。 落下傘では大きすぎることと、風に流されて沖合いに落下することを考え、直接投下することを思いついたと思います。 しかし、気の利いた錘がありません。 ウロウロしていると技術担当の一等兵が、無線機のトランスを持って現れ、 「一寸、重いですが、投下するのでしたらこれ位がよいでしょう」 わたし達も朝日が昇る前に離陸し、東京湾を横断、最短距離を飛行しましたので、2,30分で現地上空に到着しました。 しかし、上空から見てもそれらしいG軍曹機が見当たりません。 不時着地点は詳しく把握していましたので、誤差は200mもない筈です。 低空で旋回しながら、探しました。 ありました。 陸揚げしている漁船と漁船の間に、毛布や莚(むしろ)で偽装したG軍曹機を発見しました。 白い旗を振っているのがよく見えます。 波うちぎわからの陸揚げは、漁船の陸揚げのように機体の下にコロ(丸太棒)を敷き、また、機の腹を保護するために毛布を使ったのでしょう。 このあたりは、米軍潜水艦のいやがらせ砲撃、または、米軍偵察機が頻繁にウロウロしていましたので、米軍機に発見され攻撃されることを危惧していました。 高度50mぐらいの低空から、T曹長がしたためた依頼文を入れた奉公袋を投下しますと、白旗を振っていた人が大きく旗を振り、「了解」の合図をしてくれました。 T曹長。 「列車組が到着するまで未だ時間があるから、沖合いを哨戒する」 基地へ経過状況を連絡しましたが、その返電として、不時着模様を隊長から司令部へ報告したところ、「現地の浜から約10km内陸部で橋頭堡を構築中の歩兵部隊に救出の応援を要請する」とのことでしたが、隊長は、慇懃に断ったそうです。 そのことを曹長に話しますと。 「飛行機をさわったこともない兵隊で、しかも、新兵が多数をしめる。 構築部隊が応援してくれても機を壊すのが関の山だ。隊長の判断は正しい」 飛行機は頑丈に見えても、戦車のような頑丈さはありません。 例えば、搭乗する際には翼に足をかけますが、その場所は決まっていて、ウッカリ他の場所を踏むとジュラルミンが凹むおそれがあります。 沖合い約150kmまで哨戒しましたが、幸いにも米軍機飛来の気配はありません。 基地から。 「先発隊の連絡を待ち切れずに、部品と整備兵10名が乗ったトラックが出発した」 との連絡がはいりました。これで整備兵は総動員です。 わたし達が上空を警戒している時間にも限りがありますので、そのことを曹長に尋ねますと、 「貴様はアレコレと心配する必要はない。自分の領分だけをシッカリ守れ」 いわれるとおりです。 このような場合には、規則、規程などは関係がなく、現実から脱出する応用が先決であることを痛感しました。 先発隊が到着し、S上等兵から無電連絡が入りました。 昨夜は徹宵状態で機を陸揚げして、潮を落とすため、エンジン部分を除いた他の箇所を地元のひと達総動員で水洗いをしてくれたそうです。 地元の在郷軍人で50代の元飛行機の整備を担当していた人が、率先して指示されたらしいのです。 道理で、素人では考えられない機の偽装の仕方だったわけです。 誰か経験者がいるのだろうとは想像していましたが、白い旗を振ってくれた人ではないかと思いました。 G軍曹機は、 空冷式エンジンのシリンダ−部分に付着した潮が乾き、白っぽい色をしているとのことです。 全天候型であっても、不時着の際に相当エンジン部分の隙間に浸水していることと思います。 被弾損傷した脚は、ジョイント部分がへし曲がっているが、もう片方は異常ないとのこと。 T曹長。 「部品を積んだトラックが到着したら、即、電池を交換しろ。 通信連絡途中で電圧低下のおそれがある」 なるほどと思いながら、経験はマニュアル以上であることを教わりました。 飛行機を間近に見る機会がないため、子供たちが多勢近くまでやってきます。 そのため、100m以内には近寄らないよう、急ごしらえの縄張りを作っているそうです。 基地のトラックが到着し、先発隊が点検した損傷箇所のうち、まずプロペラの交換作業に入った。と無電連絡が入りました。 エンジンの電気周りの絶縁状態が悪いと、エンジンがかかりません。 その点は抜かりなく整備兵が調べたところ、矢張り「分配器」が浸水しているようで、取替え中とのことです。 イグニッションは大丈夫なようです。 これらの状況連絡は基地の通信室でも聞いていると思いましたので、私の方から基地への連絡はしませんでした。 そうするとT曹長は、 「貴様とS上等兵の連絡事項は報告ではない。知った状況は逐一わが方から基地へ報告しろ」 そのとおりでした。 わたし達の機の残燃料は、後、500km飛行可能ですが、夕刻まで米軍機を警戒するには、少し無理なようです。 T曹長。 「一旦帰投し、燃料を補給する」 S上等兵。 「大日本国防婦人会」と書いたタスキをかけた地元のオバさん達が、炊き出しをしてくれています」 「それから、何処かの憲兵隊から、憲兵上等兵が二名きて、大きな顔をしていたところ、在郷軍人の口ひげを生やした将校が、「群集の整理をしろ」と一喝していました」 わたし達は一旦帰投し、修理状況を隊長に報告。 燃料補給を待ちかねてソワソワしていますと、通信室のN中尉から、 「こんな時こそ落ち着くんだ。日頃の貴様らしくないぞ」と冷やかされました。 現地に再度到着し、念のため沖合いを哨戒しましたが、異常がなくホッとしていると。 T曹長。 「G軍曹を呼び出してくれ、修理状況を尋ねる」 「エンジンの状態はどうだ」 G軍曹。 「左のエンジンが片落ち気味。被弾している箇所はないので、他の原因のように思われます」 「脚は修理し、出し入れを点検確認しましたが、異常なしです」 T曹長。 「よしわかった。暫く暖気運転をしろ、直るかも知れん」 「整備兵には、慌てずに完全を期すように伝えろ」 「干潮時に浜の硬い部分から離陸する。住民の方々にお世話になったお礼を言うのを忘れないよう」 「Y中尉殿と代わってくれ」 「中尉殿、体のご不自由をいとわず、お世話になりました。ありがとうございます」 西日が眩しくなってきました。まもなく干潮時です。 G軍曹から「エンジン快調」との連絡が入りました。 いよいよ離陸です。 T曹長。 「黒ずんだ砂浜をゆっくりと転がし、脚がめり込まないかを確認しろ」 G軍曹。 「基地の滑走路よりも快適であります。離陸します」 T曹長。 「慌てるな。ここで失敗すれば、いままでの皆の努力が水の泡になる」 「我が機の現在地は座標○○、そちらの上空に到着するまで待て」 曹長は相当慎重を期しているように感じました。 G軍曹機は離陸準備を整えて待っていました。 T曹長。 「よし、離陸するぞ。思い切って行け! 海水を被ってエンジン停止墜落は認めない」 離陸成功です。 上空から見ていると、地元のお世話になった方々が一斉に拍手しているのが見えます。 二機が並んで、低空飛行で翼を2、3度振り、「ありがとう」とお別れの挨拶をして帰投しました。 後で聞いたのですが、Y中尉は地元の役場、警察、消防団、在郷軍人会、国防婦人会の皆様にお世話になったお礼のご挨拶をしたうえ、帰隊されたそうです。 それにしても一日で修理完了とは、さすが我が隊は精鋭が揃っていると、感心しました。 [著者からひとこと]
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