米軍通信傍受の研修平成16年4月16日配信 |
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我が隊における米軍通信の傍受とその解明方法を、実際の現場を経験して会得するため、司令部から2名の将校が来隊されました。 2名とも中尉でしたが、その内の一人は当隊の通信室長と陸士の同期のようで、久方振りの再開に、しばらく話に花が咲いていました。
隊長が来られて、
「通信傍受の実態も知らずに云々言う前に、現場の状況をつぶさに経験し会得することが肝要である、と司令部へ具申していたが、長官の命令により、多少英語ができる2名の中尉が本日から3日間、当隊で研修することとなった。
そのつもりで、遠慮なくしごいてくれ。 2人とも選ばれたことに自信を持ち、司令部の堅苦しい空気から開放されたと思うな。結果を求められることを自覚せよ。
従って、階級を忘れて技術習得に専念すること。 なお、研修中の見習士官は、近い内に司令部への転出することが決定された。
そのつもりで、認識を新たに研修すること。 なお訓練担当は、通信室長を長とし、実際に傍受した交信内容の分析解明については、T曹長がこれにあたることとする。
以上である。」
隊長は司令部でも有名な論客でしたから、2人は直立不動の姿勢で聞いていました。
丁度その時和訳担当兵が、
「米軍機が離陸しました。2機のようですが、空母発進ではなく陸上の基地のようです」と報告。 一人の中尉が「どうして空母発進ではないのか、また、2機と特定する根拠はなにか」と納得できない顔で質問しますと、T曹長が、
「爆撃機の場合は、無線機の調整のため離陸後、編隊を組んだのち短波帯でV符号の連送を行なうのが通常でありますが、今の交信は長波を使用しており、2種類の波形しか検出されていないことから、2機と限定しても過言ではありません。
また、空母からの発進であれば搭載している無線送信機の種類も相違するため、僅かな波形の歪から類推したものであります。
なお、無線電話(A3電波)の電波が長波であるのは、任務を終了して離脱する際に、もし被弾しており基地まで帰投できない場合は、海上に不時着または落下傘降下により脱出しますが、救助潜水艦に対する緊急信号(メ−デ−、[Mayday])は、長波でないと伝わらないためです。」
(注)短波は水の中では伝播しません。長波でも、電波が届く深さは15〜16mです。
「なお、爆撃機は短波・長波とも送信可能な無線機を搭載しております」
中尉。
「長い間の経験から会得した一種の技術と思われますが、その能力を鍛える方法は、どうすれば体得できるでしょうか?」 T曹長。
「先ず、[何故か]との疑問を感じること。 今の交信内容を例にしますと、離陸直後の基地との交信のあとに、大きな雑音が入りました。 あの雑音は機銃を試射したときの雑音で、2回入りましたから、そのことから憶測しても、2機であることが推量できます。 交信終了後に発信を止めていた場合は無音状態となりますが、直ぐに送信機を切る操縦士はあまりいません。 それと、「集中力と、ねばり、頑張り」が必須要件となります。 人間は[安きに流れたい]という性癖がありますが、[安き]とは楽な方法を取りたいと思う心です。 物事を簡単な手段で処理する方法がないかと、先ず考えてしまうことです。 この、「手抜きをして簡単に処理する味」を一旦覚えると、なかなか元には戻りませんし、任務を完全に遂行することができなくなります。 相手の動向を探るのは、忍耐強く、絶対に手抜きをしてはなりません。 一見回り道をしたと思っても、その回り道に重要な情報が落ちている場合があります。 わたし達も、いたずらに洋上をさまようことがしばしばありますが、諦めたことはありません。 いつ発信があるかも知れない電波を、ダイヤルを回しながら検波する根気とねばりがなければ、達成することはできません。 一番大事なことは、表面に現れた事象から、その裏に秘められた米軍機の意図を察知する能力を養うことであります。」 中尉。
「聞けば聞くほどムツカしく、実際の現場で気合をいれて習得する必要性を痛感した。」 T曹長。
「先ほどの米軍機の今後の動向は、次の交信で概ね判明できると思います。 本土の空襲であれば、僅か2機で飛来してくるとは思えません。 自分の推測では、白昼堂々と飛来してくるのは、空襲ではなく偵察であると思います。 離陸後、約1時間経過しましたが、現時点では、座標〇〇の位置であると、想像できます。
本土に向かって北上しているのか、あるいは、他の基地へ移動中なのかはわかりませんが、あと、2、30分もすれば、基地との交信または僚機との交信が入るでしょう。」 和訳担当兵が「茅ヶ崎方面の我が軍の橋頭堡の構築状態を偵察するようです」と報告してきました。
T曹長の推測どおりでした。 「硫黄島基地の戦闘機に相違ありません。
1時間あまり経過していますので米軍機の機種は不明ですが、巡航速度400kmとすると本土から概ね600〜700kmの海上を飛行中であります。」 やっと索敵命令がでました。
約1時間半前に米軍機を捕捉していたことに対して司令部の2人は、改めてわたし達の索敵能力の素晴らしさを感じていたようです。
迎撃機の出撃基地に対する通報は座標数値で入れるから、当該基地に対する情報連絡をよろしく頼む、と通信軍曹に依頼しました。
わが方は1時間も前からエンジンを始動し、いつでも出撃できる体制をとっていましたので、即、出撃しました。
T曹長は「やれやれ、また、お出迎えするか!」と冗談を飛ばしていました。
そろそろ米軍機が姿を表す頃です。前方に小さな黒点が二つ見えます。
双眼鏡のズ−ムを最大にしてよく見ますと、P38です。
レ−ダ−捕捉を警戒して、高度はかなり低く約500mでしょうか。 こちらは高度5,000にとり、相当上空から監視して米軍機の飛行コ−スを基地へ通報していますが、友軍機はまだ現れません。
レ−ダ−基地の情報が「大編隊来襲」だったのか知れませんが、我が軍の戦闘機が5機も編隊を組んで飛行してくるのが遠望できました。
基地の通信軍曹から、
「米軍機は多勢に無勢と判断したのか、目標侵入を中止するようだ。
2機同士で、任務遂行か帰投かを判断しかねている交信が入ってきた」 続けて
「基地からの命令で、やはりアキラメてお帰りのようだ」 と弾んだような声が入ってきました。 米軍機は、我が軍の迎撃戦闘機に気をとられ、わたし達が遥か上空で逐一動向を伺っていたことを知らなかったようです。
後の始末は迎撃機にまかせて、わたし達は帰投の途につきました。
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