新人見習士官平成16年2月27日配信 |
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通信室長が一人の見習士官を連れ、各部署を案内し紹介してきました。 襟章は曹長の階級章で座金(注)を付け、サ−ベルを吊っていましたが、幾分緊張気味です。 私たちの部隊は、家族的な雰囲気の中にも一種独特の緊張感と規律の厳正を要求されており、いつも待機状態ですから、気を許せる合間は殆どありませんでした。 通信室長。 「この度配属されてきた○○見習士官は、アメリカ生まれのアメリカ育ちである。開戦前に帰国、某大学で電子工学を学んでいたが、学徒動員令により召集を受け、陸軍予備士官学校を卒業。我が隊へ配属されてきた。 司令部の特別命令による。 それは、司令部から委託された三名の和訳担当兵の長として、米軍の情報を傍受・分析する能力を訓練し、近い将来司令部の諜報班を充実させることである。 皆も協力してくれ」 本人から詳細を聞きますと、アメリカ在住の中学生の頃にアマ無線の経験があり、モ−ルス通信ができるとのこと。 ですから昭和16年のアマ無線の全面封止まで、僅かな期間でしたがアメリカの友人と短波無線で交信していたようです。 英語は当然ベラベラ、そのうえモ−ルスができるというならば、我が隊にとっては鬼に金棒です。 一人前の通信要員となっても、当隊の戦力として残留して欲しいと思いました。 旧軍隊の印象は、「しごき」の殿堂であったように戦後語り継がれていましたが、そんな事が行われていたのは、上官が「ヒマ」であった部隊なのでしょう。 一刻を争う勝負に賭けている部隊には、そんな余裕など微塵もありませんでした。 余計なことですが、今回の「イラク派遣反対」デモあるいは「自衛艦派遣反対」に参加している人たちは、自分の生活に随分と余裕がある人たちだと私は思います。 毎日のようにハロ−ワ−クに通っている中年者の方々は、イラクより先ず、自身の生活を考えるでしょう。 平和な状態が半世紀も過ぎますと「一国平和」的な思想が蔓延するのだと思い、私たちが青春をかけ命をかけてきたのは、いったいなんのためだったのかと最近つくづく感じます。 先ず通信室長が、訓練に先立って、心構えとともに次のことを訓示していました。 1.英語の読解力だけではダメだ。攻撃に向かう途中と帰投途中では抑揚が違 う。帰投途中は、お互いが気を許して交信しているからその雰囲気でわかる。 2.空母からの発信と陸上基地からの発信では、空母発信の場合、編隊を組むまで発信しないから、時間間隔で推測できる。陸上基地の場合、戦闘機は概ね三機が同時に発進するので編隊を組むのが早い。これらは、経験から会得すること。 3.飛行機搭載の無線機はそれぞれの波形が違っているので、過去の分析資料を参照すれば、敵機の形式をほぼ解明することができる。 波形の分析は技術担当兵が教えることとする。 4.モ−ルスは大半が暗号を使っているが、ときどき生文で交信することがある。波長によって、機種を推測することが可能である。 5.モ−ルスの高速通信は固定送信所からの自動送信であるため、受信はかなり熟練を要する。従って、受信困難なときは通信軍曹と交替すること。 6.米軍の座標系を識別する能力を的確に、なおかつ早急に会得すること。なぜなら、交信状態を傍受できても、どの位置における交信かが問題であるからである。 例えば、サイパンあたりの戦闘機の交信内容を捉えても、通信諜報の役にはたたない。 7.我が隊の索敵機とA3電波で交信するときは、明瞭度を確保するため、歯切れよく。マイクにかぶりつくような姿勢で話してはならない。機上での受信は机上と違って、明瞭度が悪いからである。 8.我が隊は、上は隊長から下は二等兵まであるが、それぞれの任務についての知識、技能は他部隊の追随を許さない熟練者ばかりである。従って、自分の階級を忘れて「教えを請う」姿勢を忘れるな。 ただし、軍隊の規律は守り、決してナレナレしくするな。 9.自分の知識、技量に奢るな。娑婆での知識は戦場では役に立たないことが多い。 10.選ばれて当隊に配属された自負心を持ち精進せよ。 概略このような訓示をしていましたが、本人はさぞかし「難しい部隊に配属された!」と思ったことでしょう。 まるで初年兵のように聞き入っていましたが、目つきはやる気がマンマンでした。 無線電話での交信方法ですが、軍隊では、相手のコ−ルサインと自分の方のコ−ルサインを告げた後に「感どうか、明どうか、どうぞ」と、言います。 訳しますと、「感度はどうですか、明瞭度はどうですか、どうぞ」と、なります。 この「どうぞ」を聞いてから発信しますが、タイミングが悪いとお互いが発信状態となり、交信することができずにチグハグとなります。 余談になりますが、最近TVニュ−スの中で北朝鮮のニュ−スを放送している場面が出ます。 北朝鮮のアナウンサ−の喋りかたが感情を込めた雄たけび調なのは、「放送員話術」というのがあり、どんな場合でも言葉に気迫を失ってはいけないからだそうです。 「放送員話術」には、「言葉の気迫は、我が放送話術の基本属性の一つである。わが放送は、偉大なる金日成主義を実践する最も、鋭利な思想的武器である」と述べているそうです。 雄たけび調を聞いていると、言葉はわかりませんが、聞いている人は一種の威圧感を覚えます。 どのような些細なことでも、党の権威を失墜させる結果は招いてはならない原則があるようですが、その辺は、日本の旧軍隊よりも厳しいのでしょう。 (注)座金(バッチ) 見習士官とは、士官の見習いではなく、陸軍の階級です。 初年兵から一定の学力があり試験に合格後、予備士官学校に進み卒業すると、見習士官(判任官*)に任ぜられ、半年〜一年後に少尉(奏任官*)に昇進しますが、任官するまで、襟章の後ろに金色で金属製の星型をしたバッチを付けていました。 学徒動員兵は殆どこの制度を利用していました。 このバッチを付けていない曹長がいわゆる「叩きあげ」で、軍隊では一番怖い存在でしたし、羽振がききました。 (*)大日本帝国憲法では、官僚に以下のような種別がありました。 ・「親任官」:天皇陛下が自ら任命する職種。天皇陛下による親任式を経て任命される。(軍の階級では大将) ・「勅任官」:「親任官」と同じく天皇陛下が自ら任命する職種ですが、親任式は開かれず、御璽を捺した勅書によって任命されました。(軍の階級では中将・少将) ・「奏任官」:内閣の奏薦に基づき天皇陛下が勅裁し、内閣の印璽でもって任命する職種。(軍の階級では佐官・尉官) ・「判任官」:官庁が天皇陛下の委任を受けて任用する職種。(軍の階級では下士官)
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