通信兵の補充平成16年1月23日配信 |
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定時偵察から帰投後、隊長に情況を報告したのち「ホッ」としていると、通信室長が若い一等兵を連れて、T曹長と私に、 『この度○○一等兵が、当隊に配属されてきた。我が隊は米軍の情報探知のため航空偵察に止まらず、米軍通信を24時間体制で傍受している関係から、通信担当兵が不足し、隊長から司令部に対して3名の増員を要望していたが、本日付けを持って1名の増員があった。 例により、「M伍長が隊長命により、教育せよ」とのことである。 T曹長も協力を頼む』 またまた、お鉢が回ってきました。 新人の訓練はこれまで命令されて何名も担当してきましたが、一人前に速くなってくれると、遣り甲斐もありますが、個人差があるので簡単ではありません。 当時、軍の通信兵の員数(要員)は不足しており、陸海軍は委託生として無線学校で教育を行い、卒業後、即実戦部隊へ配属する制度を導入していました。 「委託生」とは旧中学校生から募集し、軍籍を持ち無線学校で二年間の教育を受ける制度です。 なぜ、通信兵が不足するかといいますと、内地でも外地でも米軍の攻撃は、先ず口と耳の役割を果たしている通信所を第一目標とすることから、死傷者が多発するため、熟練した通信士の補充が急務であったのです。 因みに、東京の某無線学校の陸海軍委託学生出身の通信兵約1600名のうち、終戦後、無事に復員できたのは約600名だそうですが、殆どが南方戦線での通信所勤務であったそうです。 配属されてきた一等兵は、東京目黒無線学校(官立)の陸軍委託生でしたが、私より一才年上でした。 基本的な軍事教練は、在学中に派遣将校が学校で教練を行なっていましたので問題はなかったのですが、一般社会で使う言葉と軍隊の用語はかなり違いますので、先ず、軍隊用語の訓練から始めました。 例をあげますと。 ★兵舎の前・・・・舎前(しゃぜん) ★兵舎の後・・・・舎後(しゃご) ★物干し場・・・・物干場(ぶっかんじょう) ★便 所・・・・厠(かわや) など、特有の用語を使っていましたので、「娑婆用語(一般社会で使う用語)は一切使うな」と注意しました。 その他、「・・・であります」調でしたので、言葉使いのいろいろを教えましたが、一番本人も苦にしていたのは、「僕」または「私」と言う言葉でした。 軍隊用語は「自分」と言い、相手の名に「さん」を付けることは厳禁で、同僚および自分より階級が下の場合は「貴様」と呼び、自分より階級が上の場合は、名前の次に階級を入れ「○○兵長殿」と言うように「殿」を付けて呼ぶのが慣習となっていました。 初仕事は、暗号室との電文の受け渡しでしたが、 暗号室へ入る際には 「○○一等兵、受信電文を持って参りました」 部屋を出るときは 「○○一等兵、用、終わって帰ります」 この躾がなかなか実行できずに、暗号室の兵長にビンタを食らったそうです。 当人はションボリしていましたので、「ビンタの一つや二つでショボくれるな、俺は教育隊当時に、毎日のようにビンタが飛んできた。 貴様は委託生出身だから、昇進は少年兵よりも速い筈だ。外地への配属が大勢いる中で、当隊に配属されたことに感謝しろ。 階級は上がっても一人前の通信兵になれなくて、強制転属とならないように精進しろ」と励ましを含めて注意しました。 通信術は官立無線で教育されただけに、手直しをすることは殆どありませんでしたが、雑音と混信の中から受信信号を捉えるのは、実際の現場でないと訓練できませんので、実際の受信を傍受する形で練習をしました。 ただ彼は、受話器のことを時々「レシ−バ−」と言いましたので、「英語は「敵性用語」としてご法度であるので、絶対に使うな」と注意したこともありました。 この新人の一等兵は、東京の某私立無線学校生徒でしたが、昭和18年8月の私立無線学校の全面閉鎖により官立無線へ統合された時、軍籍に編入されたとのことでした。 これらの措置は、陸海軍が通信士の確保を容易にするためのものでした。 本人は在学中に官立になったことで余計な神経を使うことになったそうです。 それは本科生(東京目黒の本所)との接触だったらしいのですが、詳しく内容を聞くと、本科の生徒は官帽に海軍式のチュ−ニック服で、襟元には白いホ−ロ−引きの「官」の襟章がついていましたが、元私立生は国民服によれよれの戦闘帽(軍隊では略帽という)と巻脚半姿で、襟には「官」の襟章をつけていましたが、薄い真鍮製の粗悪品だったそうです。 一番嫌だったのは、授業が終わる頃を見計らって、正門前に本科生が待ち構えて「全員運動場に集合」をかけ、なんの理由もなく私立学校出身者に往復ビンタの嵐を食わせるのが恒例となっていたこと、だったそうです。 「貴様らはたるんどる。目黒魂を叩きこんでやる。これが官立魂だ。」 これが、毎日のように続いたようです。 本科生が持つ優位的な観念は、「競争率の高い入試に合格して入学した官立の本科生と無試験入学が殆どであった私立とは本質的に出来が違うのだ」という気持ちからそのような行動をしたのか、真意はわかりませんが、弱者をいじめて強がり、優越感に浸る連中は現在でも存在しているように想われます。
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