コロネット作戦平成15年11月14日配信 |
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通信室の兵隊に対する英文タイプの訓練も概ね順調に進み、分速50字程度は打てるようになりましたが、印字された文字は濃淡があり、運指方法はまだまだでした。 昔のタイプライタ−は、キ−を打つと活字がついているバ−が動き、インクを染み込ませた布テ−プの上から紙に印字する機械式でしたから、キ−を打つ力が一定でないと出来上がりの印字状態に濃淡がでました。 指によって力の強弱ができるのが原因です。 人により得手不得手はありますが、左手の薬指と小指が不得手な人が多いので、ロ−マ字綴りで、『W A K A Y A M A』を繰り返して打つ練習も取り入れました。 左右交互に動かすことと、不得手な「A」を繰り返して練習することができ、また「W」の次に「A」を打つ場合にはポジションキ−に戻らずに打つ方法を練習することもサポ−トしましたが、米軍の無線交信を受信しながらの練習が上達の早道でもありますので、通信軍曹は率先して練習をしていました。 そのとき「Colonet=コロネット」の単語がしばしば出てきました。 和訳担当兵が受信した電文を翻訳すると、「Colonet」以外は暗号文で翻訳することはできないとのことでしたが、「コロネット」とは、昔の婦人帽の羽根飾りのことで、羽根が周囲から真ん中に向かって垂れ下がるような形であるとのこと。 いずれにしても、暗号文の中にこのような単語が出てくるということは、「羽根飾り」は重要なキ−ポイントであると想定されました。 通信軍曹はあまりタイプができないので受信文に脱字部分が多かったため、私が代わって通信内容を受信し、技術担当兵が当該周波数をオシログラフで検知して波形の分析を行いました。 波形の分析では固定通信所間の交信のようです。 モ−ルス符号に少し癖があり、長音がやたらに長いので、バッキ−電鍵で人が打っていると思われます。 終信符とSK=電文終わりサンクス」を受信したので、和訳担当兵が翻訳可能部分を翻訳したところ「コロネット」以外に「Strategy 作戦戦略」と電文の最後に「The highest military secrets 最高軍事機密」とあることが判明しました。 「コロネット」とは作戦名の暗号で、作戦の内容は暗号化されていたため解明することは出来ませんでした。 ただ、作戦に関する重要通信を固定通信所間で、しかも最高軍事機密として交信していることに対し、私たちは「連合軍の戦略に大きな動きがある」と確信し、室長から隊長に経過報告を行うとともに司令部に情報をいれ、同時に傍受した電文の解読を依頼しました。 司令部は、東京田無の陸軍特殊情報部の暗号解読班と協同して解読に努めました。電文の始めの部分は抜けたところが多く、全体の解読は不可能であったそうですが、要約すると、日本本土上陸作戦に関する米軍の各部隊に対する命令事項であることがわかりました。 米軍では1944年(昭和19年)7月に、日本本土上陸作戦の構想が登場していたそうです。関東地方に対する上陸作戦名を「コロネット」、一方、九州南部への上陸作戦名を「オリンピック」と呼び、総称して「ダウンフォ−ル作戦」と命名していたそうです。 マリアナ諸島、硫黄島の攻略もこの作戦の一環であったと考えられます。 軍事機密事項であっても、それを取り扱った兵隊(例えば、通信兵、暗号兵)がひとことでも第三者に漏らすと内容が知れわたります。 我が軍では通信内容の漏洩については厳罰に処せられましたが、米軍ではどうなのだろうかと思っていましたところ、隊長から伝達事項がありました。 『隊長』 本日、司令部からの伝達で米軍の日本本土上陸作戦に対する本土防衛構想が示された。 作戦名を「決号作戦」というが、関東の海岸線防備は「決三号」である。 米軍の上陸予想地点は、湘南海岸(米軍は、チガサキ・ビ−チと呼んでいる)を主として、同時に千葉県の九十九里浜にも上陸することが、米軍の暗号通信を解読した結果、判明した。 湘南海岸と九十九里浜から同時に上陸して北上し、北から来る我が軍の援軍を遮断した後、再び南下して東京に向かうようであるが、進軍途中で部隊が木の枝のようにわかれながら左右から東京を攻撃する作戦のようである。 この進撃形態が婦人帽の羽根に似ていることから「コロネット作戦」と命名しているそうである。 なお、上陸決行時期は現段階では解明できていないが、陸軍特情部が鋭意探索中である。 従って、当隊においても、従来以上に任務の重大性が増し的確な情報把握を要求されることとなる、全員が協力して任務達成に努めることを、強く要望する。 以上である。 米軍の固定通信所間の通信は暗号化されたモ−ルス符号でしたので、短波通信の暗号解読は特情部が行いますが、戦闘機のような移動体の通信は無線電話によりますので、近いうちに米軍内で漏れた情報が生で傍受できることを予想し、和訳担当兵を動員して、昼夜兼行で傍受する体制が採られました。 戦闘機と思われる交信を傍受することができました。 内容を要約しますと「作戦実行地点はどの方面だろうか? 決行時期はいつ頃だろうか?」という内容でした。 やはり歴戦の兵士であっても、近い将来に重要任務につくであろうという一種の不安感があったのでしょう。 通信内容の中に、茅ヶ崎、辻堂、厚木、八王子、熊谷、など関東地方の都市名があることから推量すると、交信している米軍兵は「コロネット」作戦に参加するであろうということを体感していたのでしょう。
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