ある通信兵のおはなし

米軍通信の転送解読

平成15年9月8日配信
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 昭和20年3月硫黄島が米軍によって陥いれられてからは、サイパン島にあるマリアナ基地からB−29が発進し、途中、硫黄島および航空母艦から護衛と爆撃の戦闘機、グラマンF6F、ノ−スアメリカンP−51マスタング戦闘機が参加する日本本土空襲のパタ−ンが出来あがっていました。

(P−51の諸元概略表、写真をはじめ「おはなし」のなかで出てくる航空機の写真等をHPで掲載しています。URLはコーナーの最後で紹介しています)

 昭和19年6月16日、中国の成都基地を発進したB−29が北九州の八幡製鉄所を爆撃したのが本土空襲の始まりです。

軍需工場が主な目標であったのが無差別焦土作戦へと変わり、B−29は1万mの超高度から焼夷弾を投下し、戦闘機は高度約100mの低空から機銃掃射と爆弾投下攻撃を加え、人々は必死に逃げ惑いました。

ここで焼夷弾の仕組みをご紹介します。

 ゼリ−状の油脂ガソリンにナフサネ−ト(石油精製過程の副産物)と、パ−ム油(椰子油などの油脂に水素を添加したもの)を混合したものを「ナパ−ム」といいます。
 このナパ−ムを充填した焼夷弾(約2.7Kgの正六角形)を38発束ねた爆弾は、B−29から投下数秒後に、爆弾の鉄バンドが解かれ、焼夷弾が空中にばら撒かれます。
そのとき、麻布製のリボン(長さ約1m)が飛び出し、空中の揺れを防いで正確に落下するようになっています。

 さきのイラク戦争で、日本の某新聞社の記者が、使用済みと判断して拾ったクラスタ−爆弾と原理的には同じですが、クラスタ−の中味は油脂ではなく殺傷用に鉄片がはいっています。

 昭和20年4月、通常の索敵行動を終え、「現在地〇〇、索敵異常なし、これより帰投する」と打電した直後のことです。

「英文で超高速の無線を傍受せしも、高速のため受信できず、陸軍特情部へ連絡するも、ノイズ(雑音)フェ−ディング(感度の強弱)が激しく受信不可能、〇〇KHzを検波されたし」との連絡が入りました。

 早速当該周波数にダイヤルを合わすと、なるほど超スピ−ドですが、幸い洋上ですから電波障害が殆どなく、よく聞こえます。
送信は人ではなく自動送信機(通称名 トラ)のようです。

生文でしたから基地の和訳担当兵は即座に解読できるのですが、残念ながらモ−ルス符号の受信が出来ません。

基地の通信兵は和文と数字の受信は堪能ですが、日頃は殆ど英文の送受信はしていませんので、高速の英文受信は到底できる筈がありません。

相棒のT曹長が「貴様が受けて、基地へ転送できないか」

「タイプがあれば何とか受信できそうですが、手書きでは自信がありません」
と言うと
「できるかできないかではなく、先ず実行しろ!」と、手厳しい忠告をいただきました。

「感度のよい周辺を旋回するからやってみろ」と言われて、数分間聞いていると、同じ内容の電文を繰り返しているようです。

 当時、サイパンのB−29のコ−ルサインはV400番台、グァムはV500番台、テニアンはV700番台が通信の冒頭部分につけていたので、基地を解明することが出来ました。

どうやら補給体制の指示のようです、従って、生文での通信だったのでしょう。

この辺の空域は敵機の警戒空域ですから、絶対に油断はできません。

相棒のT曹長が「敵機の哨戒は俺がするから、貴様は受信に集中しろ」と、励ましてくれましたので必死になって受信しましたが、筆記体でないと受けられないのと、筆記体ではbとfの区別が難しいです。

こんなに符号に集中したのも久し振りです。暗記受信が出来ないと、神経が疲れます。

学校でもう少し真剣に英語を勉強すればよかったのですが、苦手科目の一番でしたからいまになって苦労することを反省しました。後の祭りです。

・−・−・(終了符号)を聞いてホットしましたが、受信用紙が7枚程、しかし、一つの単語のなかでの脱字がチラホラあります。前後から判断すれば、基地の和訳担当兵は容易に埋めることが出来るでしょう。

通信軍曹を呼び出して、分速80字程度であれば受信可能か?と尋ねると、「やってみる」との回答。

 一語一語の間隔を充分に空け、手書き受信をした電文を送りましたが、なんと書いてあるのやら、分からない文字が数ヵ所もありました。
その部分は・・−−・・(?)と挿入しましたが、受ける方としてはややこしい限りです。

さすが通信軍曹は経験豊富でしたので、2.3回の再送要求のみで全部受信してくれました。

和訳担当兵が即座に翻訳すると、やはり補給に関する通信内容だったそうです。

補給関係で移動もしくは変更があるということは、部隊編成の移動が近くあることを意味します。

和訳した電文を通信室長から司令部へ報告するとともに、隊長に受信した経緯を説明したそうですが、「よくやった、ご苦労であった」とのことでした。

 わたし達の機はその頃、まだ遥か南方の洋上を北上していましたが、一部始終は無線で連絡が入りましたので、「やった」と思った途端に疲れが「ドッ」ときました。

「ナビをしっかりやれ」と相棒に促されて我に帰りましたが、二人三脚の無線通信は、最初で最後の経験でした。


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