ある通信兵のおはなし

米軍無線の降伏勧告通信

平成17年4月8日配信
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【第122話】〜米軍無線の降伏勧告通信〜

 通常使用する周波数は、何時でも受信可能状態に置くために電源は24時間ONの状態にしてスピ−カ−に繋いでおき、呼び出しがあれば即応答するようにしていました。

8月12日の明け方、当方のコ−ルサインを呼んできましたので、上等兵が、応答しようと電鍵に手をかけました。
スピ−カ−から流れるモールス符号を聞き、私は咄嗟に「おかしい」と判断しました。音質が少し高いのと、長音(―)が少し長いのが気になったからで、技術担当の徳本一等兵を呼び、オシロスコ−ブで詳細を調査するよう依頼しました。

自動車のエンジン音と同様に、無線送信機から発信する電波もメ−カ−によって多少の相違があります。また、モ−ルスの長音が少し長いのは、通信士のクセもありますが、私の憶測では米軍がよく使っている横振り電鍵の符号であると感じました。

しかし、我が隊のコ−ルサインを名指しで呼び出してくると言うことは、ただ事ではありません。どのようなル−トで漏れたのか?油断できません。

徳本一等兵が調べたところによれば、送信機は日本製ではないらしいとのこと。

理由を聞きますと、
「周波数のプラス、マイナスの幅が非常に少なく、音質も綺麗であることから推測して、硫黄島、または沖縄からの発信のようである」とのことでした。

そこまで分析できれば、我が方が応答して相手の出方を探ることも一つの方法であると思い、「こちら〇〇〇 QTC ?(我がほうに送るべき電文ありや)と打ち返しますと。

「CW SK」(受信ありがとう)。

と返ってきました。

我が軍では使わない無線略語が簡単に通じましたので、米軍通信隊であることを確認しました。

「送るべき電文はあるが、英語は受信可能か?」

横で聞いていた和訳担当兵が
『「OK」と返事をしてください。英文タイプで受信しながら、もう一人が同時通訳をします』
これまで何度も同時通訳による通信を経験していましたから、慌てることなくこちらの布陣は整いました。

「QSA 4 QRK 4 (感度、明瞭度とも申し分なし)G(電文を送信されたい)」

速度は90字ぐらいでしたが、案外と綺麗な符号でした。
英文は和文と比べると一符号の構成が短いので、即解読することと暗記受信を必要とします。

電文の送信が始まりました。

「最初に貴通信隊の責任のある隊長殿に申し告げる。これから送る情報は、本日外交ル−トを通じて、正式に日本政府に対して通告されるものである。

ポツダム宣言に対する日本政府の回答は、「天皇制の存続と国体の護持」が先決であると解釈できる文言であるが、ポツダム宣言とは、あくまでも日本国が無条件降伏することを要求したものである。

日本は無条件降伏の時より、天皇及び日本国政府の国家統治の権限は、連合軍最高司令官の制限の下に置かれるものであることを、明確に認識すべきである。

さらに付言すれば、ドイツ、イタリアが降伏したときと比べて降伏条件の趣が相違することも、日本の軍上層部は充分知悉し、今後、無辜の国民が蒙る惨禍を最小限とする措置を早急に講じるべきである。

日本軍の一部の上層部においては、「徹底抗戦」を唱えているようであるが本土決戦に持ち込んで、勝算があると思考している軍人たちは、日本伝統の武士道精神によるものではなく、やぶれかぶれの最期のあがきである。

良識のある日本軍人とは、散り際を潔ぎよく、日本の桜のようでなければならない。

これまで述べた事項について、貴隊の良識ある判断と決断を望むものである。」

発信責任者の署名はありませんでしたが、8月10日ごろからB-29からばら撒かれた伝単(宣伝ビラ)と同じような内容でした。
日本政府および軍の動向をつぶさに紐解いている手腕と技術に対して、情報戦争に於いても負けていることを窺い知ることができました。

我が通信隊の所在が既にバレていることから、これまで行ってきた通信傍受、通信妨害、なりすまし通信などの件についても詳細に亘って米軍側が把握していることと思われます。

受信した電文の翻訳文を隊長に報告するとともに司令部に対して即刻報告しました。

通信兵全員に対して、無線呼出しに対しては「敵味方識別略語」の交換を行い、安易に応答をしないようにとの、平岡少尉からの伝達がありました。

蛇足ですが、現在のPCネットの世界でも、他人のアドレス、IDを使い、「なりすまし」メ−ルを送ったり、通販の不正が横行しているそうです。

顧客情報を預かる企業は、安易に個人情報を扱っているために、秘扱いの情報が流れてしまい、結果的には悪用されることを、その職務にある人は充分認知するとともに管理意識の徹底を図る必要があると思われます。


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