ある通信兵のおはなし

ポツダム宣言

平成17年3月11日配信
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 昭和20年8月10日の早朝、昨夜は徹宵状態でしたのでなかなか起きることができず、気分だけ起きていたところへ、

血相を変えた徳本一等兵が
「隊長が『下士官以上は軍刀を持って、隊長室へ集合せよ』との命令であります」と飛び込んできました

一気に眠気が吹っ飛びました。
「何が起きたのか」と聞いても、「分かりません」としか返ってきません。

早々に身支度を整えて隊長室へ伺いますと、既に平岡少尉と藤田曹長の二人が左手に軍刀を持ち、ただならぬ気配を感じさせて立っていました。

傍らに憲兵少尉と軍曹が苦虫を噛み潰したような顔をして立っています。
7月末頃にも憲兵が臨検にきましたが、そのときの通信室長は中尉でした。
中尉はその後転属され、今は、平岡少尉が室長でした。

隊長
「我が隊の下士官以上は、この3名だけである、臨検の用件を聴こう」

憲兵少尉
「我々は、陸軍通信隊が無線通信により『「ポツダム宣言」を受諾した』との流言蜚語を交信していると察知したため、そのことを確認せんが為に来たのだ」

隊長
「目的はわかった。
最初に忠告しておくが、『我々』と『来たのだ』の言葉を撤回せよ。
貴様は陸士の何期だ?」

少尉
「陸士出身ではなく、甲種幹部出身であります」

隊長
「一片のペ−パ−試験にパスしたぐらいで、大きな面をするな。
上官に対する言葉使いは習わなかったのか?」
隊長はまず、先制パンチをお見舞いしました。

「ところで、第一航空軍司令官の許可を得ているのか?」との隊長の問いに対し、憲兵少尉は「臨検にいちいち許可を得る必要はありません」と答えました。

その返事と同時に隊長は抜刀しました。
それまで平静であった、隊長の一大変身です。

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憲兵の二人は拳銃を抜きましたが、安全装置が外れていませんでした。

私は
「拳銃の撃ち方ぐらいは勉強しろよ。安全装置はどうした?教えてやろうか」と言い、憲兵たちに拳銃を向け、安全装置を外しました。

ここまでくれば「やるかやられるか」の問題です。

隊長が、
「伍長、拳銃を退け。我が隊には剣道の有段者が3名もいるから、場合によっては憲兵の相手をさせる」

これを聴いた憲兵の二人の顔が少し引きつってきました。

隊長は
「貴様たちに聞くが、無線通信を通じて、流言蜚語を流しているとの情報はどこから聞いたか。『察知した』といったが、憲兵隊に無線受信機はあるのか、モ−ルス符号を解読できる者がいるのか、受信した周波数は何khzか」

「分かり易く聞こう「いつ」「どこで」「誰が」「何を聴いたのか」「その内容は」・・・」

隊長は矢継早に質問しました。

憲兵少尉。「・・・・・」

隊長
「貴様たちが、ことここに及んでまでも友軍の動向に疑いの眼を向けるのであれば、俺にも考えがある。『臨検の許可は必要ない』と言ったが、その必要性の有無を、第一航空軍隷下通信隊を統括している須原中佐に伺いを立てる。
回答がくるまで、貴様たちを此処へ拘留する」

その日の午後、須原中佐に同行して、二人の憲兵が所属する憲兵隊の少佐が到着しました。
このお二人が陸士の先輩後輩の間がらであったことは、後で聞きました。

憲兵少佐は隊長室の憲兵二人を見るなり、無言のままでビンタの嵐です。
見かねて須原中佐が止めに入りましたが、殴られた憲兵たちの鼻と口から血が噴き出ています。

森田隊長
「憲兵少佐殿から聞くまでもなく、真意の程はよくわかりました。二人をお連れください」

やっと、最悪の険悪状態から抜けることができました。

終戦真近な時期は軍隊といえども、かなり神経が昂ぶっていたのです。

ご参考までに、「ポツダム宣言」の概略をご紹介します。

ポツダムは、ベルリン南西の宮殿や別荘が点在している美しい町で、会談が行われたチェチリエンホーフ宮殿は、ドイツ帝国の最後の皇太子一家の館(やかた)でした。

現在も当時のままの姿で残されており、その一角はホテルにもなっています。
1945年(昭和20年)7月26日、この場所に連合国の首脳が集まり、我が国に対する降伏勧告が協議され、宣言が採択されました。
この宣言は、地名をとり「ポッダム宣言」と名づけられました。
 
1.われら合衆国大統領、中華民国政府主席及びグレート・ブリテン国総理大臣は、われらの数億の国民を代表して協議の上、日本国に対して、今次の戦争を終結する機会を与えることで意見が一致した。
2.合衆国、英帝国及び中華民国の巨大な陸、海、空軍は、西方より自国の陸軍及び空軍による数倍の増強を受け、日本国に対し最後的打撃を加える態勢を整えた。
この軍事力は、日本国が抵抗を終止するまで、日本国に対し戦争を遂行しているすべての連合国の決意により支持され、かつ鼓舞されているものである。

3.世界の奮起している自由な人民の力に対する、ドイツ国の無益かつ無意義な抵抗の結果は、日本国国民に対する先例を極めて明白に示すものである。
現在、日本国に対し集結しつつある力は、抵抗するナチスに対して適用された場合において、全ドイツ国人民の土地、産業及び生活様式を必然的に荒廃に帰させる力に比べて、測り知れない程度に強大なものである。われらの決意に支持されたわれらの軍事力の最高度の使用は、日本国軍隊の不可避かつ完全な壊滅を意味し、また同様に、必然的に日本国本土の完全な破滅を意味する。

4.無分別な打算により日本帝国を滅亡の淵に陥れた、わがままな軍国主義的助言者により、日本国が引き続き統御されるか、又は理性の経路を日本国がふむべきかを、日本国が決定する時期は、到来した。

5.われらの条件は、以下のとおりである。
われらは、右の条件より離脱することはない。右に代わる条件は存在しない。
われらは遅延を認めない。
われらは、無責任な軍国主義が世界より駆逐されるまでは、平和、安全及び正義の新秩序が生じえないことを主張することによって、日本国国民を欺瞞し、これによって世界征服をしようとした過誤を犯した者の権力及び勢力は、永久に除去されなければならない。

6.このような新秩序が建設され、かつ日本国の戦争遂行能力が破砕されたという確証があるまでは、連合国の指定する日本国領域内の諸地点は、われらがここに指示する基本的目的の達成を確保するため、占領される。

7.右の如き新秩序が建設せられ且つ、日本国の戦争遂行能力が破砕せられたることの確証があるまでは、連合国の指定すべき日本国領域内の諸地点は、我らのここに指示する基本目的の達成を確保する為、占領せらるべし。

8.カイロ宣言の条項は履行され、また、日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国並びにわれらが決定する諸小島に局限される。

9.日本国軍隊は、完全に武装を解除された後、各自の家庭に復帰し、平和的かつ生産的な生活営む機会を与えられる。

10. われらは、日本人を民族として奴隷化しようとし又は国民として滅亡させようとする意図を有するものではないが、われらの俘虜を虐待した者を含む一切の戦争犯罪人に対しては厳重な処罰を加える。日本国政府は、日本国国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去しなければならない。言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は、確立されなければならない。

11.日本国は、その経済を支持し、かつ公正な実物賠償の取立を可能にするような産業を維持することを許される。ただし、日本国が戦争のために再軍備をすることができるような産業は、この限りではない。この目的のため、原料の入手(その支配とはこれを区別する。)は許可される。日本国は、将来、世界貿易関係への参加を許される。

12. 前記の諸目的が達成され、かつ日本国国民が自由に表明する意思に従って平和的傾向を有しかつ責任ある政府が樹立されたときには、連合国の占領軍は、直ちに日本国より撤収する。

13.われらは、日本国政府が直ちに全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、かつこの行動における同政府の誠意について適当かつ充分な保障を提供することを同政府に対し要求する。これ以外の日本国の選択には、迅速かつ完全な壊滅があるだけである。


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