ある通信兵のおはなし

大本営発表

平成17年2月4日配信
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 昭和20年8月8日は、早朝から、各航空戦隊の通信隊から司令部に対する意見とも感じられる照会の無線が殺到し、手がつけられなくなりました。

平岡少尉が隊長の許可を得て、その実態をつぶさに報告しました。
しかし、司令部の回答は

「広島に対する新型爆弾投下の関する情報は、大本営が発表されたとおりである」

でした。

 各戦隊の上層部が、そのような通り一辺の回答で納得する筈がありません。
そのうち、デマを交えたような無線の交信が入り乱れ、収集することが難しくなりましたので、森田隊長から司令部に対し、「このまま放置すれば軍規が弛緩する怖れがある」と具申するとともに、「大本営発表」の真実を、早急に全軍に周知する必要がある旨を報告されました。

 因みに、あの甲高い声で放送するNHKのニュ−スは、現在の北朝鮮テレビのアナウンサ−の声と瓜二つでした。

その日の昼前、森田隊長から集合の命令がありました。

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森田隊長。

「これより、司令部からの命令を伝達する。
内容は全て秘扱いであるため、家族にあてる手紙などは今後検閲する。

わが軍のこれまでの戦いぶりならびに戦果についての「大本営発表」の真偽について、一般国民も不審感を抱くようになってきたことは事実である。

ミッドウェ−海戦の敗北も、その詳細な戦況は、一切、国民に知らされていなかったのが実情である。

『上手の手から水が漏れる』の喩えがあるが、『日本の空母は全滅したらしい』との風聞が流れるようになってからは、明らかに捏造を想わせるような戦果を堂々と報道していた。

貴様たちも周知のとおり、米軍の飛び石作戦により、米地上軍はヒシヒシと本土に迫りつつある。

アッツ、サイパン、グァム、テニアン、硫黄島も、大本営発表の戦果を収めていたとするならば、日本軍の玉砕はなかった筈である。

また、6月23日には沖縄第32軍の牛島中将が自決し、組織的な抵抗は終結した。

大本営およびわが軍の上層部が、戦闘だけを戦争と考えていたことに問題がある。

戦争における情報の重要性に関して、全く無知、無感心であることから、国民に正しく正確な情報を伝えることを考えていなかったのが大本営である。

7月28日、鈴木貫太郎首相は「ポツダム宣言を黙殺する」と発表したが、政府は不可侵条約を締結しているソ連に対し、密かに「和平の斡旋」を依頼したそうである。

司令部の李司令官は、「現状の重大さ」と「真相を傘下の部隊に対して伝達する必要性」を憂慮され、通常の周波数と異なる無線で情報を通報する措置を直ちに講じるように、と指示された。

従って、この情報伝達用の特別周波数は〇〇khzとすることとなった。
特別周波数の周知は、既に司令部通信班から暗号で通報済である。

司令部との直通電話により伝達される情報を、毎日12:00に放送形態で行なうこととするが、送信内容を米軍が傍受していたとしても、事実の情報である以上は問題はない。
ただし、この施策は司令官の独断的な判断に基づくものであり、他のわが軍が傍受することにはいささか問題がある、との結論から、暗号文は使用しないが、高速の和文送信(概ね分速120字以上)とすることとした。

開始は「本日の12:00」からとする。

なお、受信機一台でアメリカの「VOA」を常時受信することが許可された。
(注、VOAは「はなし」の第22話を参照してください)

以上が司令部からの伝達事項であるが、今後、あらぬ流言蜚語に迷うことなく、自己の任務を忠実に遂行するよう努めること。

以上である。」

情報を軽視し「戦争を続けること」が至上の命題であった大本営発表が瓦解してゆくさまを、垣間見る想いがすると同時に、決して負けない日本軍の精神的支えが崩壊しつつあると痛感しました。


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