通信の迅速性平成16年12月19日配信 |
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転属してきた通信隊では、主として一日2回暗号化された気象情報を放送形式で送信するのですが、暗号は4文字単位のもので、短波放送の一方通信だったため、日本本土は勿論のこと、遠く南方方面でも、私たちが送信する情報を受信していました。 数字を羅列した暗号の送信を長時間にわたって続けるのは全く無味乾燥で、神経の集中もさることながら、電鍵を打ちつつ痛切に感じたのは、このような繰り返しが毎日続くことは、隊員のヤル気を無くし、惹いては志気にも大きく影響があることのでは?ということでした。 生文の場合は電文の内容が一通づつ違いますので、機密事項以外の軍の動向をいち早く知ることができ、自分も任務遂行に寄与していると言う実感が湧いてきます。 が、1〜0の組み合わせの暗号文の送信の連続は、惰性に流れてしまうような気分になってきました。 1対1の交信の場合は、送受信が終わった後、お互いが「ごくろうさま、さようなら」の意味をこめて「通信終了、ありがとう」を略号で交換しますので「無事に通信が終わった」と、ホッとした感覚が自然と出ますが、相手が完全に受信できたのかどうかの確認もできない放送形態の送信は、ただ電文の送信が終了しただけのことで、任務を終えたとの感覚は全くありません。 これの繰り返しですから、ある上等兵が足を組み、左膝をついての送信姿勢もある意味わかるような気がしました。 F曹長(藤田曹長)が、転属組の兵隊と既存の兵隊を組み合わせて、従来行っていた米軍機に関する通信諜報を行なうこととなりました。 行なうに当たっては、既存の兵隊に対する教育訓練が先ず必須要件でした。 モ−ルス符号に関しては、1〜0の軍隊の略符号は堪能でしたが、他の和文、特に英文の送受信はいささか心もとないというのが実態でした。 特に、タイプライタ−の操作が覚束ないので、実戦では使えませんでした。 平岡少尉を通じて隊長にタイプの配備を要請していましたが、ほどなく和英文のタイプが配備されました。 教育係は、岩城上等兵(中野無線卒で逓信省管轄の海岸無線局で3年の現場経験をふんだプロで、剣道の有段者)と決まりました。 既存の上等兵8名は全員とも旧軍の通信学校卒でしたが、20才で現役入隊後に修得するのと16〜17才頃から習うのとでは、自然と差がついてしまうのです。 10代の頃は体で覚えようとしますが、20才を過ぎると頭で理解しようとする結果であると思われます。 既存の上等兵8名にして見れば、同じ階級でしかも年下の者から、とやかく言われることに対して当初は反発もあったようですが、通信技術はプロで、しかも剣道有段者でもある岩城上等兵には対抗できないことを悟ったようでした。 一人の上等兵が「V符号の連送が始まった」と大きな声をあげたので、転属兵の多田上等兵が受信を補佐し、和訳担当兵は護衛戦闘機の発進を探知するために配置に付きました。 私は司令部を呼び出すために、専用線の軍用電話機(磁石式)のハンドルを廻し続けましたが、応答がありません。 有線ですから、先日の空襲で被害を受けたのでしょうか? 連絡用の専用線は一回線で、その他に電話局で交換する一般電話器は二台ありましたが、情報が他に漏れる怖れがありますので、作戦に関する情報伝達については専用電話器を使っていました。 情報連絡の遅滞は通信部隊としては断じてあってはならないことです。 止むを得ず、電話局を通して司令部に「短波○○khzを検波するよう」と、連絡を入れた後、司令部の通信班を呼び出しました。 応答してきたのは、かつての同志であった杉本上等兵でした。 交信を通じての久方振りの再会でしたが、懐かしがっている余裕がありません 私 「この周波数を、作戦終了まで確保されたい。B-29が後20分ぐらいで発進するようだ」 S上等兵 「了解。高速での送信であれば内容はばれない。こちらは2名で受信する」 情報連絡ル−トは一応確保できましたが、通信部隊が通信手段に苦労するとはナンセンスです。 軍の上層部は、無線機を保有する通信部隊における通信は無線機で充分で、他の通信手段の構築と保守については感知していなかったのでしょう。 が、無線通信手段は即応性には優れてはいますが、電波は一旦発信すると地球の隅々まで届き、敵側に傍受される怖れがあることと、24時間体制でワッチ(受信)していなければ通信ができない、という最も初歩的な感覚がなかったものと思われます。 迎撃管制システムに関していえば、当時の欧米各国と比べてレ−ダ−、通信機器などのハ−ド面も劣っていたことは、否めない事実ですが、一つの迎撃システムとして運用するソフトが陸海軍が別々に運用し、情報の共有化はとられておらず、また味方の迎撃戦闘機を直接指揮するシステムにもなってはいませんでした。 戦闘機を理想的な位置へ地上から誘導する防空システムが完成されておれば・・・とも思われますが、圧倒的な兵器の差には遺憾ともし難い面が多々あったことも事実です。 今回の米軍機の動向を探知する作戦に皆が協力しながら実践できたことが、今後の任務遂行によい影響を与えることはいうまでもなく、よい刺激剤になりました。
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