少年兵の技倆平成16年11月12日配信 |
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新任地の隊長(森田大尉)から、転属してきた平岡少尉、藤田曹長と私の三名が隊長室へ呼ばれました。 隊長。 「我が通信所は全国の航空部隊に対する「気象情報」の一方放送と、各通信隊との定時連絡を主な任務としている。 しかし、単調な仕事は任務に対する充足感、満足感あるいは達成感に乏しいため、惰性になりそれが嵩じると、不満分子の集団になる怖れがある。 このようなことにならないように、充分気合をいれてやってくれ。前の隊では協力体制と軍務規律が旺盛であった、と聞いている。 そのことは、司令部から三度の感状(表彰)を授与されたことからも推測できる。我が隊もそのような勲功をたてられるよう努力してゆきたい。 本日、司令部命令により転属してきた者は、従来の戦術を踏襲することとなった。概略は須原中佐殿から伺っているが、実際の戦術展開をつぶさに見たい。なお、哨戒機との情報連絡の交信は齟齬をきたさないよう、都度、司令部の須原中佐殿から命令されることとなった。 なお、本戦術は、「軍事機密事項」として、一切の口外を禁じる。従って、交信記録もその軽重を判断し、逐次、焼却処分する。 また、米軍機の交信傍受および電波妨害用の通信機材を2.3日中に配備する予定であるが、従来の機器および増備する機材一切の保守調整を、徳本一等兵(技術担当)が担当することとする。以上である。」 隊長の話しを聞いたところでは、以前の隊で行っていた任務と全く同様であり、哨戒機との連携が他の飛行隊になるだけです。この隊の雰囲気に馴染めないこともあるでしょうが、自分の任務を果たすことが先決であると、自分自身に言い聞かせました。 通信室の陣容は、F軍曹以下9名で内一人は兵長でした。他の7名は全員上等兵でした。通信技術の修得についての経緯は全くわかりませんが、送信している姿勢から憶測すると、気合が入ってないことが歴然としていました。 一人の上等兵が足を組み、左の肘をついていましたので、私が「足を組むな。通信兵が電鍵を打つときは、銃の引き金を引くときと同じで気持ちで打て」と注意したところ、相手はカンにさわったらしく、 上等兵 「足を組もうが、手を組もうが、信号が相手に伝わればいいんじゃないか」 私 「言葉使いに注意せよ。『いいんじゃないか』とは誰に言っているのだ! メンコの数を振りかざしても、技倆が伴わないと新兵と同じだ。先ほどからの送信を聞いていると、とてもプロとして一人前とは言えない。 転属してきた和訳担当専門の一等兵でも、貴様ぐらいの技術はある。 貴様たちは、若造をイビッテやろうと考えているのか? もしそうなら、俺と通信技術を競うか? その勇気があるのか!?」 F曹長が、「なにを論争しているんだ」ついで、藤森軍曹(以下F軍曹といいます)が部屋にきましたので、先ほどからのいきさつを説明しますと。 F軍曹が「よし、受けて立とうじゃないか」 F曹長は、何も言わずにニヤニヤしていました。 心の中では、これを機会のF軍曹配下に一泡吹かせてやろうと思っているのでしょうか。 私 「競技の定めは、和文一分間の速度を100字、5分間で500文字の送受信とし、計10分とする。 英文も同様に5分間の送信、5分間の受信とする。 なお、誤謬は一文字につきビンタ一回とする。不揃いな符号は5箇所につき、誤謬一文字と見なす」 「採点方法がきついと思うかも知れんが、俺はそれで鍛えられてきた。 また、代表選手が負けた方は、[全体責任]の原則に基づき総員ビンタとする」 F曹長は即座に「了解した」と言いました。 わたし以下転属組は、分速100字ぐらいは朝飯前ですから、代表選手に指名して欲しそうな顔ばかりでした。 F曹長が「俺が和文の送信原稿をつくる。英文は和訳担当の一等兵が作成せよ」 「競技は本日20:00からとし、平岡少尉殿から、隊長に対していきさつを説明 し、了承を得ていただく」 私 「転属組の代表は、不肖私が努める」 F軍曹の配下はヒソヒソと相談をしていましたが、なかなか決まりませんので、F曹長が「F軍曹が受けて立つと明言したがどうしたんだ!!この隊の者は皆、腰抜けか?」荒々しい怒号でした。 F軍曹は、そこまで言われては、引っ込んでいるわけにはゆきません。 「俺が代表になる」 マンマと私の手中にはまりました。 『若造と少年兵』と侮ったことに対して、相応の苦い体験をしてもらうことと、通信術はメンコの数で上下が決まることでないことを、この際充分に体得してもらいましょう。 F曹長に対し、審査は公平にまた厳重にお願いしたいことと、曹長の符号はキレイでしたので、受信するための送信をお願いすることにしました。 私とF軍曹が並んで送信を始めました。 軍曹は前かがみになって、右肩が上がっています。 この姿勢は一番悪く、肺疾患を患う遠因とも言われていました。 20〜30字を記憶し、送信しながら横を見ますと、平岡少尉と眼線が合いました。 「負けるな」と言っているように感じましたので、「ニヤッ」っと笑いました が、いつぞや、機上から基地に通報をいれた際、少尉殿に対し「ヘボカワレ」と打ったことを想い出していました。 F曹長の「送信止め」の号令で、5分間の送信は終了しました。 先ず、送信内容の審査が始まり、「印字機」に記録された符号の審査が行なわれましたが、F軍曹の符号は150字あたりから符号の不揃いが出始め、符号と符号の間隔が不揃いとなり、やがて、誤字がチラホラ見えます。 F曹長が真剣に採点をした結果、誤謬文字が15字、符合の不揃いが30箇所にも及びました。 これでは、実戦の役には立ちません。 常日頃部下に任せきりで、殆ど電鍵を打つことがなかったことを証明しています。 次いで、私が送信した符号を審査しましたが、誤謬はなし、不揃いな符号はなしでした。 F曹長は「送信でこれだけの誤謬があることは、受信をやっても意味がない。 勝負は決まった」 「最初に双方が了解したとおり、全員ビンタとする。誤謬15字で15回、符号の不揃いが30箇所でビンタ6回、計21回のビンタを行なう。 「F軍曹側は、対面で横一列に並べ。 最初の一発は俺がやる。 念のために言っておくが、俺は小学生から柔道を習ってきた。 現在は柔道四段である。 思い切り殴れば、部屋の隅まで吹っ飛ぶだろう。 『歯を食いしばれ、眼鏡を外せ』 F曹長が本気で殴ることはないとは思いましたが、その気になれば歯の3本ぐらいは飛び、口の中は傷のため4.5日はメシを食うことができないでしょう。 叩かれ馴れしますと、顎に手が当たると同時に倒れ込みます。 この仕草は学校当時に、悪い上級生から「上級生から殴られる場合のコツ」を教えてくれていました。 立ちあがることができない兵隊が2名いました。 F曹長が「部屋で介抱をしてやれ。貴様たち皆に告げておくが、今後、俺たちに対して「メンコ」云々を言う場合は、腕前をあげてから勝負をいどんでこい。いつでも相手をしてやる」 F軍曹の顔は丸つぶれですが、このような結果となった背景の責任は、軍曹にあるのですから、擁護のしようもありません。 「ヘボカワレ」と言われたことに発奮し、立派な通信少尉に成長された平岡少尉のことを思うにつけ、厳しさのない兵隊ほど役に立たないものはないことを痛感しました。
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