通信現場は技術優先平成16年11月5日配信 |
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昭和20年5月下旬、 基地閉鎖に伴い、各人の転属先の部隊名を通告される日がとうとうやってきました。 お世話になったT曹長ともお別れしなければなりません。 その他、共に苦労してきた通信兵たちともお別れです。 めぐり逢いはいいものですが、別れは感傷的になります。 この感情は軍隊でも同じです。 副隊長の横田中尉から 「6月1日付けをもって昇進する次の三名は、それぞれの任地における飛行戦隊の飛行訓練教官を命じる。 竹中准尉は九州の〇〇飛行戦隊の飛行訓練教官。 中谷曹長及び後藤曹長は、本土防衛〇〇飛行戦隊の飛行訓練教官。 司令部通信隊には、平岡少尉以下次の7名とする。 藤田曹長、岩城上等兵、多田上等兵、松村上等兵、徳本一等兵、三好伍長(私)。 また、杉本上等兵、竹中上等兵は、司令部本部の通信班。 なお、和訳担当兵の3名は、これまでは軍属扱いであったが、6月1日付けをもって軍籍編入とし、これまでの功労を勘案して一等兵とし、司令部通信隊勤務を命じる」との通告がありました。 司令部の通信隊への転属は計10名にもなりました。 通信隊の所在地は、米軍機の空襲を避けるため、学徒疎開のため休校中の東京・荻窪の小学校にありましたが、要員は隊長以下10名でした。 我々10名が転属することにより、20名の大所帯になります。 須原隊長、横田副隊長および通信室長の中沢中尉は、司令部本部付きとなりました。 その他、整備兵等もそれぞれ転属部隊を告知されましたが、身辺の整理に大忙しでした。 5月の末日、一台のトラックが基地に到着しました。 積荷はなんだろうと思っていますと、副隊長から「これは、隊長が『先の空襲により、着替えの軍服を無くした者もいる。また、自分の部下を泥まみれの姿で新任地へ転属させることはできない』と司令部に対し支給を要請した上から下まで新品の軍服である」との話を聞きました。 厳しい隊長でしたが、細かい心遣いには感激しました。 昭和20年6月1日の早朝、平岡中尉と藤田曹長、それに私の三名が隊長に転属の申告をした際、隊長が、 「いままでご苦労であった。 我が隊の敢闘精神を充分発揮するよう健闘を祈る。 なお、司令部通信隊の隊長M大尉は、本官の知り合いであり、既に連絡済みである。遺憾のないよう任務遂行に努めてくれ」 との言葉をかけてくださいました。 いままで何度も聞いた訓辞とは、言葉の抑揚が違っており、止むを得ず別れ別れになる無念さが滲みでていました。 竹中曹長、中谷曹長と後藤曹長に転属の申告をしましたが、胸がつまり、上手く言えませんでした。 竹中曹長 「貴様は19年の秋、我が隊に来たときと比べると、顔つきがまるで違う。 それだけ多くのことを学び、また経験してきた賜物であろう。 戦局は厳しく先が見えない状態だが、隊長がいつも言っていた「犬死」だけはするな。 この言葉が貴様に教える最後の言葉だ。元気で頑張れ」 涙が出そうになるのを、グッとこらえました。 中谷、後藤の両曹長も、なにも言わずに上を見上げるようなしぐさをしていました。 私になにかを言いたいのを、こらえているようでした。 平岡少尉以下10名は、途中の列車の中でも一言も喋らずに目的地に到着しました。 平岡少尉と藤田曹長が、隊長室へ転属の申告に行きましたので、私たちは通信室のF通信軍曹に転属の申告をすると、 F軍曹の第一声は 「若い現役兵と少年兵か。何処から逃げて来たのか」 その日のわたしは、朝からションボリとしていましたが、その第一声を聞くなり、ムラムラと闘争心が湧き上がってきました。 「若い兵隊と、少年兵でも通信技術は一人前であります。現場で仕事をすればお分かりになると思います」 口調は少し荒立っていました。 わたしの反撃を受けたF軍曹は 「貴様、タカガ伍長の分際で生意気なことを言うと許さんぞ!軍隊はメンコの数がものを言うことを知らんのか!!」 この、 「タカガ〇〇の分際で」という言葉は、誠に差別的かつ卑劣な言い方で、相手の人格などは問題外とする軍隊であっても、言うべきことではありません。 私は、ますますムカッとして、 「通信現場では、あくまでも技術が優先であって、メンコの数では満足な通信はできないと思います」などとやり返していますと、藤田曹長が隊長に対する申告をすませて、部屋に入ってきました。 その場の雰囲気を悟り、曹長がF軍曹に対して、 「今後言いたいことがあれば俺に言え。 多勢押しかけてきたことが気に食わないか? 役に立つか立たないかは、現場における仕事が証明する。 初めに言っておくが、我々は決して逃げてきたのではない。 第一航空軍の再編成によるものである。 前の部隊の詳細は「最高軍事機密事項」のため明かすことはできないが、少なくとも貴様たちより高度な作戦を展開していたことだけを言っておく。 気にいらないのであれば、司令部のオエラガタに直接言え!」 着任早々から雲行きが怪しくなりました。 通信所のボスとして大きな顔をしていたところへ、自分より上の少尉と曹長が転属してきたのですから、通信軍曹にしてみれば「自分の縄張りを犯される」と勝手な想像をしたのでしょう。
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